■「あの子に渡してもらえるかい、君の手から」と、准太の祖父が高人にオレンジの実を手渡す。
■高人が准太にオレンジの実を投げ渡す。
■サクロモンテの丘の酒場で、高人がオレンジの花の髪飾りをもらう。
■准太が「どの花が好き?」と祖父に聞かれ、「オレンジの花」と答える。
原作を読む限り、高人はオレンジの意味を知らないまま、准太に渡している印象を受けました。その一方、スペイン人の祖父をもつ准太は、「片割れのオレンジの意味」も「オレンジの花言葉」も知っています。
オレンジを深堀してみるとBLのルーツにたどり着く…!?
『だかいち』の劇場版アニメ&原作6巻をさらに楽しむために、本記事では以下を深堀します。
■片割れのオレンジのルーツ(起源)
■なぜ、オレンジなのか。他の果実ではダメなのか。
私は上記を深堀したことで、『だかいち』の表現の深さを感じました。愛が深すぎて溺れそうって感じです……!
特に「片割れのオレンジのルーツ」は、BLのルーツでもあるように思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
「片割れのオレンジ」のルーツは古代ギリシャ文学にある
紀元前350年頃に哲学者・プラトンが著した『ザ・バンケット(饗宴)』のストーリーが、「media naranja(半分のオレンジ)」のルーツ(起源)といわれてます。
本書を読もうとすると内容が難しいと思うので、ここでは『誰も知らない世界のことわざ』(エラ・フランシス・サンダース著)から軽く概要を押さえておきましょう。
アリストファネスは「人間は『男-男』『男-女』『女-女』が1組1人になっていて、あるときゼウス神が人間への怒りからそれらを真っ二つに裂いてしまい、人間は不完全なものになった」と考えました。
エラ・フランシス・サンダース著『誰も知らない世界のことわざ』
それ以来、人間は失った「片割れ」を探し求め続けることになりました。
そして時には、その努力が¨実り¨(fruitful)につながることもあるのです。
では、4つのポイントに絞って物語の詳細をみていきます。
神の怒りをかった人間は真っ二つに切断され不完全に
ギリシャ神話の世界では、原始時代には三つの性(男男、女女、男女)に分かれていたとされています。
二体が背中合わせにつながって、頸(くび)の上には反対方向に向いた同一の二つの顔があったそうです。さらには4本の手足、4つの耳、2つの性器という形態。
古代の人間はとても傲慢な態度だったため、全知全能の神・ゼウスの怒りを買ってしまいます。ゼウスは人間の傲慢な行動を改めるよう、真っ二つに切り落としたのです。
半身となった人間は「じぶんの片割れ(同性・異性)」を探している
真っ二つに切断したものの、顔や手足が不格好なので、見栄えをよくするために整えました。それが今の人間の姿です。
半身になった人間は、不完全な自分を完全なものにするために、「じぶんの片割れ」を探し求めることになります。男男だった者と女女だった者は同性愛者で、男女だった者は異性愛者です。
二体であったもとの自分に戻りたいという欲望は、エロス(エロース)と呼ばれています。エロースとは、古代ギリシア神話に登場する恋心と性愛を司る神のこと。
古代ギリシャの一説は、男性同士が惹かれ合うBLのルーツともいえそうです。
探している相手は魂レベルで繋がるニコイチの存在
スペイン語の “Media Naranja(半分のオレンジ)” とは、生涯をともにする相手を表現したもの。その相手とは、魂レベルで繋がる二人で一つの存在を指しています。
『だかいち』原作コミックス第5巻にて高人が准太に「俺と一緒に生きてくれ」と伝えるシーンが描かれ、続く第6巻(劇場版アニメ)では、高人&准太が“生涯、共に生きる”について互いに答えを出すスペイン旅が展開されました。
オレンジの意味やルーツを知ると、付き合うとか、結婚して家庭を築くとか、もうそういう次元を超えているように感じませんか?
『だかいち』で表現されている愛は、肉体的な欲望というよりは精神的な欲望。「互いに隔たるものをすべて溶け合わせ、ともに生きる」という形の愛を表現したかったのではないかと、私は思っています。
原人の全体(からだ)は球形だからオレンジで表現される
では最後に、「片割れのオレンジというが、なぜ“オレンジ”なのか。他の果実ではダメなのか。」について深堀していきます。
プラトンが著した『ザ・バンケット(饗宴)』の一部に、「原人の全体(からだ)は球形をなしてゐて」と書かれおり、書籍によっては「オレンジのような球形の人々」と意訳されているものもあるそうです。
ここで思い出してほしいのは、オレンジの花言葉の一つ「優しさ」。これは、オレンジの果実が「女性のような柔らかさ・温かさ」を感じられることから由来しています。
まん丸で、あたたかなオレンジ色をした果実を人間に見立てている――。“オレンジ”以外の果実、例えばレモンやスイカでは、原人のからだの真意を表現しきれないという解釈でよいかと思います。
スペインでのオレンジは「魂で繋がる“二人に一つ”の存在」を意味する
『劇場版 抱かれたい男1位に脅されています。~スペイン編~』(および原作コミックス第6巻)でオレンジが象徴的に描かれている理由は、オレンジが「魂で繋がる一心同体の相手」を意味しているからだといえるでしょう。
同性愛者・異性愛者問わず“愛し合う”ということは、「私」と「あなた」の境界線が交じり合って、同一の個体になることのかなと思います。だから性別すらも超えるのです。
ただ、物理的に溶け合うことは難しいため、『だかいち』では高人が「一緒に生きるためには、ずっと一緒のままじゃだめだ」と准太に伝えています。
不安から肉体的(物理的)につながろうとする准太に対し、精神的(心理的)にしっかり繋がろうとする高人。愛することの意味を考えさせられました。
精神的な隔たりを溶かし合って、溶け合って一つになっていく。そんな愛のカタチを『だかいち』は表現している作品だと思います。
原作コミックス・TVアニメ・劇場版アニメを通して、桜日梯子先生が描く“本物の愛”をぜひ感じてみてください!
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